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ホロコースト劇薬小説『ペインティッド・バード』

 戦争が子供に襲いかかり、子供が怪物に変わっていく話。

ペインティッド・バード エグいのに目が離せない、手が離れない、強い吸引力をもつ小説だ。TIMES誌の「英語で書かれた小説ベスト100」に選ばれている。

 「酒が人を駄目にするのではない、元々駄目なことを気づかせるだけ」という言葉がある。アルコールは本能をリミッターカットする。酒が個人に降りかかる狂気ならば、戦争は大衆を襲う狂気だ。10歳の男の子がサヴァイヴする疎開先の人々は皆、酔ったかのように本能に忠実だ。むきだしの情欲や嗜虐性が、目を逸らさせないように突きつけられる。目撃者=主人公なので、読むことは彼の苦痛を共有することになる。

 体験と噂話と創作がないまぜになっており、露悪的な「グロテスク」さがカッコつきで迫る。日常から血みどろへ速やかにシフトする様子は、劇的というよりむしろ「劇薬的」。スプーンくりぬかれた目玉が転がっていく場面は、狂鬼降臨のあの「抉り出される目玉から見た世界が回転していく」トラウマシーンを想起させる。白痴の女の膣口に、力いっぱい蹴りこまれた瓶が割れるくぐもった音は、今でもハッキリ耳に残っている。読んだものが信じられない目を疑う描写に、口の中が酸っぱくなる。耳を塞ぎたくなる。

 ペインティッド・バード(彩色された鳥)は、最初は遊びとして、次はメタファーとしてくり返される。生け捕りにした鳥を赤や緑色に塗って、群れへ返す。鮮やかに彩色された鳥は、仲間の庇護を求めていくが、群れの鳥たちは「異端の鳥」として攻撃する。その鳥は、なぜ仲間が襲ってくるか分からないまま引き裂かれ、墜落する。主人公は浅黒い肌、漆黒の瞳を持つ。金髪碧眼のドイツ兵がうようよいる戦地では、「反」ペインティッド・バードになる。

 暴力に育てられた子供は暴力を拠りどころとして生きる。自分が壊れないために、自分を欺く。同時代の戦時下をしたたかに生き抜く子供の話だと、アゴタ・クリストフ「悪童日記」を思い出す。これは、狂った現実を生き抜くために、受け手である自身を捻じ曲げる話。辛い過去や悲惨な出来事は、それを引き受けるキャラクターを生み出し、そいつに担わせる。

 この、過去を偽物にしないために、自分を嘘化するやり口は、「悪童日記」だとよく見通せる。続刊の「ふたりの証拠」、「第三の嘘」と追うごとに、過去を否定する欺瞞に瞠目するから。「ペインティッド・バード」では、そんなあからさまな相対化はない。だが、それぞれのエピソードごとに別々の「主人公」がいたのではないか、と読める。

 なぜなら、悲惨すぎるのだ。

 苛烈な虐待を受け続けると、普通は死ぬ。氷点下の河に突き落とされ、浮かび上がるところを押し戻され呼吸できない状態が続くと、溺れ死ぬ。真冬の森に放置されると、飢え死ぬか凍え死ぬ。だが、彼は生き延びる。次の章では誰かに助けられるか、まるでそんなエピソードは無かったかのような顔で登場する。これは、様々な死に方をしていった子供たちの顔を集めて、この「彼」ができあがったんじゃないかと。

 「彼」は著者に通じる。あとがきで幾度も「これは小説だ」と念を押したって、どうしても出自から推察してしまう。この本を出したせいで、彼は祖国から拒絶される。「ナチスのせいにされていたが、実は地元農民の仕業だった」虐殺を全世界に暴いたからだ。さらに、冷戦のあおりを受けて、親ソ的プロパガンダと扱われたり、反東欧キャンペーンの急先鋒と見なされたり、あちこちからバッシングを受け、命まで狙われるようになる。

 全米図書賞や合衆国ペンクラブ会長など、きらびやかな経歴をまとっている反面、物理的・精神的にも攻撃されるさまは、「ペインティッド・バード」そのもの。プロフィールの最後で著者の"墜落"を知って、うなだれる。

 これほど著者とシンクロし、その人生をねじりとった小説は珍しい。
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